第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ゾロと娼婦に割り当てられた客室は、二階の端の部屋だった。
大人二人が並んで寝られるベッドが、中央に一つ。
ベッドの向かいに小さなテーブルが備え付けてあり、その上にはサービスなのだろうか、ウィスキーのボトルが一本置いてある。
天井からは錆びついたランプがぶら下がり、幅1メートルほどの窓からは白い月明りが差し込んでいた。
「へー。悪くねェな」
「・・・・・・・・・・・・」
普段、船のハンモックで寝ているゾロにとっては、この殺風景な客室も立派に思える。
「・・・履物を」
娼婦はランプに火を灯してからゾロの足元に跪き、ブーツの紐に手をかけた。
「やめろ、靴ぐらい自分で脱げる」
「・・・すみません」
娼婦という稼業は客の衣服を取るところから始まるのか。
ゾロが気味悪そうに見ていると、娼婦は無表情のまま、今度は両手を差し出した。
「・・・では、その腰の刀を」
「悪いが、これは見ず知らずの奴に触らせるわけにはいかねェ」
刀は剣士にとって魂も同然。
娼婦は再び“すみません”と謝ると、ノロノロとゾロの横を通り過ぎ、そしてベッドの前に立った。
「お客さん・・・洋服は脱いだ方がよろしいですか? それとも、このままなさいますか?」
「・・・あ?」
これから抱かれようというのに、相手の男の素性や名前を聞くよりも先に、衣服を取るか取らないかを聞くのか?
なるほど、男女の“営み”はしても、男女の“関係”にはならないように、ということか。
ゾロは納得しつつも、心のどこかで憐れな女だと思った。
「焦るな。おれがお前を買ったのは、明日の朝までのはずだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「まずは風呂に入ってこい」
そう言って、部屋に備え付けられている小さなシャワー室を指さした。