第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
たとえば今、彼の言った言葉を信じたとして。
その先にいったい何があるのだというのだろう。
「やめて、あなたは海賊でしょ」
「なんでだよ? お前だって、おれのこと愛してるって言ったじゃねェか」
「私とあなたは違う」
愛するというのは、心が何かに縛り付けられること。
自由を求める海賊にとって、もっとも邪魔な感情のはず。
“火拳のエース”
あなたがその名で、どれだけの人間を傷つけたのか、私は知らない。
そのことを咎めるつもりもない。
でも・・・
あなたがその名と、白ひげの名を背負っている以上・・・
「・・・私はあなたにとって自由の妨げになる」
海に生きる海賊と、島に生きる女は決して結ばれることはない。
彼の生き方を邪魔するくらいなら、その愛情を受け取らずにいた方がいい。
断腸の思いで呟いたクレイオだったが、エースの口から出た言葉は意外なものだった。
「で、それがどうした?」
“なに言ってんだ、おめェ”と面倒くさそうに眉根を寄せる。
「おれがお前を好きで、それがどうして自由の妨げになるんだ」
「だってさっき言ったじゃない。私を殺すか、海賊辞めるかの選択に迫られたら死を選ぶって! 私はあなたの足枷になりたくはない」
「お、ちゃんと覚えててくれたんだな」
エースは嬉しそうに笑みを浮かべながら、クレイオの瞳をまっすぐと見つめた。
「けど、そのことをお前が気にすることはねェ」
「・・・・・・・・・・・・」
「どう生きようがおれの自由。どう死のうがおれの自由だ」
誰かを守るために死のうが、
誰かを愛した結果として死のうが、
全て自分の意思。
悔いを残さない生き方をする、それが“海賊として生きる”ということ。