第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
“まだよ・・・まだ生まれてきてはダメ・・・”
「だからおれはお袋の名を継いでいる。感謝してもしきれねェからな」
“女の子なら『アン』・・・男の子なら・・・・・・・『エース』・・・彼がそう決めてた・・・”
「一度くらいは顔を見てみたかったが、写真も残ってねェんだ」
“───この子の名は・・・『ゴール・D・エース』”
「エース・・・あなた・・・」
“───彼と私の子・・・”
もし、あの鮮明な“夢”が誰かの“記憶”だとしたら・・・
もし、その“記憶”の持ち主が何かを伝えたくて、私に“夢”を見せたのだとしたら・・・
あなたは・・・あなたは、世界最悪の───
「クレイオ」
エースはクレイオの思考を遮るように、静かな瞳で見つめた。
「この身体や声や性格は、“誰か”から譲ってもらったもんじゃねェ。おれは“ポートガス・D・エース”という名で、最高の名声を手に入れてみせる」
ニッと笑うその表情の裏に隠された、揺るがぬ覚悟。
そうだ、いったい何を考えていたのだろう。
エースはエース。
“家族”想いの優しい海賊だ。
「海賊の言葉をどこまで信じてもらえるかは分からねェが・・・」
天を仰ぐように横たわるクレイオに唇を寄せる。
もう少しで触れようというところで、最後の確認をするかのように言葉を続けた。
「お前を愛している」
これは嘘偽りのない想い。
たとえ名声が手に入らなくても、お前だけは手に入れたい。
そう、たとえ“一晩”だけだとしても。
すると、クレイオはクスクスと笑った。
「なにそれ。女を悦ばせるための常套句?」
「違う、そんなんじゃねェ」
やはり信じてもらえないか。
当然だ、“愛している”という言葉は一種の約束のようなもの。
自分の一番弱い部分を曝け出し、相手と運命をともにする誓いの言葉だ。
それゆえに、愛する者こそがエースにとって最大の“弱点”となり得る。
ならばむしろ、信じてもらえない方がいいのかもしれない。
そう思った、その時。