第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「お前のベッドの上でいいか?」
宝物が詰まった袋を肩に担ぐかのようにクレイオを抱くエースは、部屋に入るなり明かりをつけるよりも先にベッドへ目を向けた。
「ち、ちょっと待ってよ!」
「待たねェ」
大人二人が乗ったら悲鳴を上げるのではないかと思うほど華奢なシングルベッド。
エースはそこにクレイオを仰向けに下ろすと、起き上がれないように覆いかぶさった。
「海賊が“お宝”を目の前にしてグズグズしてると思うか?」
「・・・・・・・・・・・・」
先にシャワーを浴びたいのだが、その時間を与えてくれなさそうだ。
女日照りが続いていたせいもあるのかもしれないが、エースはもう一秒も無駄にしたくないという顔をしていた。
焦っているというよりは、何かに追い詰められたような目をしている。
この人はこんな風に刹那的に生きているのかと思うと、胸が締め付けられるようだった。
「エース」
普通の人間は、“明日が当然あるもの”として生きている。
でも、彼は違う。
“明日は来ないかもしれない”
“目の前にいる人間が、明日はいないかもしれない”
そう思って生きているかのようだ。
だから、失うことを極端に恐れている。
だから、その瞬間、その瞬間で、悔いの残らない方を選んでいる。
「あなたは本当に・・・子どものように単純で、真っ直ぐなのね」
エースを仰ぎながら、中分けにした黒髪を撫でる。
「これは・・・父親譲り?」
今度はその手でそばかすが散りばめられた頬を撫でる。
「それとも・・・母親譲り?」
するとエースは腰を落としてクレイオに顔を近づけると、拗ねたように口を尖らせた。
「おれの親父は白ひげだ。お袋のことは・・・その名前と、命をかけておれを産んでくれたことしか知らねェ」
「命をかけて・・・?」
その瞬間、昨晩見た不思議な夢が脳裏に蘇る。