第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「いいのか?」
エースは驚いた顔をしながらも、絶対に離さないとばかりにクレイオの腰を抱き寄せた。
「だってあなたは私が出した条件に応えてくれたじゃない」
エースのビブルカードは、クレイオのポケットの中で動いている。
“早く持ち主のところに帰りたい。早く持ち主と一緒になりたい”
そう強く訴えているかのようだ。
「今更いやだと言っても、もう逃がさねェぞ」
「少しでもいやだったら、最初から海軍に捕まるのを覚悟で賞金首を家に泊めたりしない」
最初にストライダーでこの島に現れた時から、自由で物怖じしないあなたに惹かれた。
“あなたが私を殺さないという証を見せて”
だけど、屈託の無い笑顔を見ているうちに、殺されてもいいからあなたに食事を振る舞いたいと思った。
“あなたが私を犯さないという証を見せて”
夜、ベッドに眠る私を見つめながら指一本触れてこないあなたに、女性として求められたいと思った。
そして・・・
“私をひとりにしないという証を見せて”
「あなたを愛してる、エース」
最後はひとりになることが分かっていても・・・
「あなたを愛しているバカな人間は海の上だけでないことを・・・どうか覚えていて」
その言葉が、よほど大きな意味を持っていたのだろうか。
エースはほんの一瞬、泣きそうな顔になった。
しかし、すぐにいつもの笑顔に戻ると、クレイオを軽々と抱き上げる。
「今すぐ帰って、ヤろうぜ」
「・・・自分で歩ける」
子どもじゃないんだから降ろしてくれと睨んだが、エースはおかまいなしだ。
より一層強い力でクレイオを抱いたまま離さない。
「いや・・・このまま、抱いて帰りたい。もう一瞬でも時間が惜しい、お前に触れていてェ」
この夜が終わり、朝が来るまで。
少しでもお互いの体に、愛し合った証を残そう。
そんな二人を祝福しているのか、周りに咲く野生のハイビスカスの陰から無数の蛍が飛び出す。
そして、地上で瞬く星のように、その小さな命を燃やしていた。