第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
花火が終わると、海は再びその静けさを取り戻す。
音といえば遠くの祭囃子がかろうじて聞こえるだけで、あとはエースとクレイオの息遣いしかない。
「・・・エース、いまなんて・・・」
抱きしめられているせいで、エースが今、どのような顔をしているのかは分からなかった。
ただ、背中に感じる心臓の鼓動が彼の気持ちを代弁しているかのようだ。
トクン、トクン、と不安げに脈打っている。
「もしイヤなら言ってくれ。じゃねェと、このままお前を押し倒しちまいそうだ」
生きた証を残したい。
誰よりも自由に生きたい。
そんな自分の生き様を変えてしまうような女性。
クレイオと出会ってしまったことへの軽い戸惑いと、強い憧れをエースは感じていた。
自らの運命を悟っていただろうゴール・D・ロジャーも、こんな想いを抱きながら南の島バテリラに住んでいた母ルージュを抱いたのだろうか。
「エース」
クレイオは後ろを振り返ると、エースの頬を優しく撫でた。
「あなたが私を抱きたいのなら、私をひとりにしないという証を見せて」
私とあなたが歩む運命は、同じ一本道でないことは分かっている。
こうして今、二人が一緒にいるのは幾千となくある出会いのひとつでしかない。
それでもあなたは、私をひとりにしないという証を見せることができる?
「・・・・・・・・・・・・・・・」
エースはしばらくクレイオを見つめていたが、ふと口元に笑みを浮かべた。
「オイオイ・・・そりゃ無理な話だな」
女なんか連れて、裏切者を追いかける旅はできない。
だから、エースにできることはひとつだけだった。