第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
ドォンという大音響の直後、夏の夜空を焦がす大輪が花開く。
火拳の腕の中で見る火の華は堂々と輝き、海に散っていくその最後の光まで美しかった。
「・・・・綺麗・・・」
するとエースはクレイオの左手を取り、一緒に空へと腕を伸ばした。
その手首に付けているログポースは、すでに次の島“バナロ島”を指している。
「熱くねェから、安心しろよな」
自分の手のひらに重ねるようにクレイオの手を乗せ、小さなの火の玉を幾つも生み出す。
「暖かい」
クレイオは微笑んだ。
「これはおれの命だ」
ユラユラと優しい光を放つ、無数の蛍火が二人を包み込む。
「火はどこにでもある。どこにでも生み出すことができる」
クレイオを温める火、クレイオを照らす火。
全てがエースの命の欠片。
「おれは明日、出航しなきゃならねェ。約束を破るようで悪いが・・・」
どうしても黒ひげを許すことはできない。
だから今は、共に生きることができない。
だけどいつか。
すべてが片付いたら、お前をオヤジの船に乗せよう。
エースはクレイオの顔を上に向けると、唇を重ねた。
「クレイオを抱きたい」
たとえ悪魔の実が暴走し、この身と心が焼き尽くされたとしても。
“犯さない”と約束したこの女と身体を重ねることもないまま終わるのなら、地獄の業火に堕ちた方がマシだ。
それは海賊の切ない願いだった。