第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
二人の歩む道が交わっていないことを悟ったのか。
クレイオは花火の滝が消えると、エースの肩に体重を預けながらポケットから一枚の紙きれを取り出した。
「エース・・・これをあなたに返すわ」
「お前・・・」
それは、“約束を守る証”としてクレイオに渡していた白ひげのビブルカード。
「人を傷つけるための力で、あなたはとても綺麗な花を見せてくれた」
ハイビスカスも知らなかったあなたが生み出した、夜空に浮かぶ大輪の花。
パッと咲き誇ってから散りゆくまでの、ほんのわずか時間でこれほど幸せな気持ちにさせてくれるものが他にあろうか。
「あなたは私を殺さない。そうでしょう?」
仮に今、悪魔の実の力が暴走して、あなたの炎で私の身体が焼き尽くされたとしても。
きっと私はそれも幸せだと思える。
切なそうに瞳を揺らすクレイオに、エースは堪らず後ろからその身体を強く抱きしめた。
「もし・・・お前を殺すか、海賊をやめるかのどっちかを選べって言われたら」
それはエースにとって究極の選択。
「おれは“死”を選ぶ。お前を殺さず、海賊もやめねェまま死んだ方がマシだ」
その言葉にクレイオはクスクスと笑った。
「それじゃ、あなたに生きていて欲しいと願う私の気持ちはどうなるの」
悪いけど後は追わないわよ、と冗談めいた口調でつぶやく。
だけどエースは笑うどころか、つらそうに顔を歪めていた。
「お前・・・おれに生きててほしいのか・・・・・・・?」
その質問に隠されたエースの暗い過去をクレイオは知らない。
ただ一つ分かるのは、彼がどのような運命を歩んでいたとしても、この心はもう変わることはないということ。
「生きていて欲しい。エース、どうか・・・」
その刹那。
海軍がフィナーレとして、開花の直径が600メートルを超える“三尺玉”を打ち上げた。