第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「火拳の力は、ただ人を傷つけるためだけのものではないのね」
「いや、人を傷つけるためだけの力だ。だから手に入れた」
海賊王を目指していた頃に食べた“メラメラの実”。
父ゴールド・ロジャーをこれほど呪いながらも同じ海賊を選んだのは、決して血筋じゃない。
ただ、自分の存在を世界に認めさせたかった。
そのために人を傷つけることを厭わなかった。
でも、それも・・・
「今までは、な」
───今は違う。
エースが指で空を横一文字に切ると、そこに金色の火の帯が現れた。
その直線から光が溢れて流れ落ち、その滝は数十メートルにわたって夜空をいっそう輝かせる。
それは言葉を失うほどの美しさで、クレイオは瞬きをすることすら忘れていた。
「エース・・・これは・・・」
「こんなことができるとは、自分でも知らなかった」
日焼けした逞しい腕が、花火に見惚れているクレイオの肩を抱き寄せた。
火を操ったばかりのせいか、すこし熱い。
「だけど、お前に見せてやりてェって思えば、何でもできるモンだな」
人に恐怖を与える力は、人を幸せにすることもできるだろうか・・・
「ありがとう・・・エース」
クレイオを見ているとすごく胸が苦しくなるのに、そばにいてやれないと思うと、やはり苦しさを覚える。
こんな風な気持ちになるのは、生まれて初めてだ。
この島に腰を落ち着けて、一緒に暮らすという選択も悪くないような気がする。
もし、自分が海賊でさえなかったなら。
オヤジという絶大な存在がなかったなら。
その選択肢も悪くなかっただろう。