第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「お前、おれが怖くなったか?」
押し黙ったクレイオの顔を下から覗き込みながらニッと笑う。
しかし、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「・・・別に」
「本当に意地っ張りだな。少しは素直なところを見せてみろよ」
「あなたのことが怖いとでも言って欲しいの? それは素直というより、嘘つきになるわね」
あなたは私を殺さないことを証明してくれた。
それに、今まで指一本触れていない。
そんなエースを怖いと思うわけがないではないか。
「でも・・・怖いといったらそうね、一つだけ怖いことがある」
「・・・?」
「明日、ここから去っていくあなたの背中を見るのが・・・怖い」
どうせ二度と会えなくなるのなら、ほんの少しだけ。
隠していた気持ちを表に出しても許されるだろう。
「・・・その時、私はどういう顔をしているのか分からないから」
「クレイオ・・・」
ずっと地面についていたエースの右手が持ち上がり、クレイオの頬に触れようとした。
だが、それを邪魔するかのように火の華が大きく開く。
ドォン!
「きれい」
そう呟いたクレイオの瞳は寂しげで。
「でも、すぐに消えてしまう」
そう呟いたクレイオの声は切なげで。
寄り添うエースは、笑いながら彼女の頭を撫でた。
「見てろよ」
人差し指を空に向け、幾つもの火種を飛ばす。
そしてパチンと指を鳴らすと、海軍の花火に対抗するかのように大輪の花が開花した。
そして、キラキラと枝垂れていく。
「すごい!」
「気に入ったか?」
クレイオが素直に顔を輝かせているのが嬉しかったのか、エースはさらに多くの火種を空に飛ばした。
赤、青、黄、様々な色の火が舞う。
それは見事で、美しい光景だった。