第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
並んで座るエースとクレイオの距離は、10センチもない。
少し身体を傾ければ、彼に寄りかかることができるだろう。
だけど、その距離が絶望的に遠いと感じる。
同時に、“海賊”と寄り添いながら海を眺めているということに驚きもあった。
「た~まや~!」
誰も聞いていないのに、花火が開くたびに掛け声を上げる無邪気な笑顔。
本当にこのまま時間が止まってしまえばいいのに。
「エースって本当に海賊っぽくない」
「オイオイ、おれはれっきとした海賊だぞ」
それは分かっている。
あなたはその背中に白ひげの名前を背負っている。
けれど・・・
「海賊は人を平気で殺すけれど・・・あなたはそんな人間には見えない」
菊のような形をした花火が大きく開いた。
白銀の花弁がパラパラと海に落ち、エースの顔を明るく染める。
そこからは笑みが消えていた。
「悪ィが、そいつは買いかぶりだ」
それはとても冷たい声で。
「───おれは、ある男を殺すために旅をしている」
海の上ではドォンと大きな爆発音がしたというのに、クレイオの耳にはその言葉しか入ってこなかった。
「それって・・・“黒ひげ”という海賊のこと?」
「・・・・・・・・・・・・」
エースは少し驚いたような顔で振り返った。
クレイオの前では一度も出したことのないはずの名前なのに、いったいどこで耳にしたのだろう。
いや・・・そんなことはどうでもいい。
「ああ、その男を追っている。バナロ島にいるって情報を掴んでいるんだ」
これまでクレイオの前では決して見せなかった殺気が漏れているのか、チリチリとした熱がエースから飛んでくる。
なのに、背筋に冷たいものが走るのは、初めて触れる“火拳のエース”の恐ろしさか。
「あいつは“鉄の掟”を破って仲間殺しをした。おれの隊にいた男だから、おれが始末をつけなきゃなんねェんだ」
海賊の世界は分からない・・・
けれど、エースを引き止めることができないことは、この一言で痛いほど分かった。