第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「どうした?」
名前を呼んだまま黙り込んでいるクレイオを見て、エースは首を傾げながら微笑んだ。
彼の顔を見ていると吸い込まれそうになる。
尖ったナイフのように鋭い視線、何物をも恐れない豪胆さを見せたと思えば・・・
不安そうに何かを求める瞳、失うことを酷く怯えているような脆さを伺わせる。
そして、今見せている表情は後者。
そんな顔で微笑む時、私はあなたの手を掴みたくなる。
“大丈夫、あなたはここにいてもいいのよ”と伝えたくなる。
「・・・何でもない。忘れて」
「なんだよ、気になるだろ。お前にとっちゃ何でもねェことが、おれにとってはそうじゃないかもしれねェ」
「さあ、どうかしらね」
「話す気はねェ・・・か」
エースは残念そうに肩をすくめると、小さな声で“意地っ張りだな”と呟いた。
夏島の夜風は少し湿っているが、息苦しさを覚えるのはそのせいではないだろう。
クレイオは顔を背けるように、開いたままとなっていた本に目を落とした。
「なぁ、お前さ」
こちらをジッと見つめてくる、海賊とは思えないほどの優しい瞳。
視線を通わせたらいけない。
もし目を合わせたら、必死で心の周りに張っている防御壁を、透明にされてしまいそうだから。
「特別な男はいねェのか?」
「え?」
思ってもみない質問に、声が少し上ずってしまう。
なんでそんなことを聞いてくるのだろうか。
「せっかくの祭りなら恋人と行きそうなもんだろ。だけどお前、おれと一緒にいるから」
「・・・一緒にいて欲しいって言ったのは、そっちでしょ?」
「そりゃそうだ」
クスクスと笑っているエースが求めている答えは、そんなものではないことくらい分かっている。
そして、彼の質問にちゃんと答えたいと思っている自分もいる。
恋人はいない。
でも、どこにも行って欲しくない、そばに居て欲しいと思う人ならいるわ。
───それくらいなら、少しは想いを込めて伝えてもいいだろうか・・・?
「私には・・・」
クレイオが口を開きかけたその瞬間。