第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
時計の針がゆっくりと進んで欲しいと願う時ほど、時間が早く経つのは何故だろう。
家に戻るまではかろうじて海の上にいた太陽も、気づけばその姿をすっかりと消していた。
居間のソファーに座りながら、天井から吊るしたランプの灯りを頼りに本を読んでいるクレイオ。
指は確かにページをめくっているはずなのに、並んでいる文字は何一つ頭に入ってこない。
ただ、コチコチという時計の針が耳障りなほど大きく響いていた。
「・・・・・・・・・・・・」
エースはといえば、“最後の晩餐”とばかりにクレイオの手料理をたらふく平らげたあと、庭に面した窓辺にイスを置き、先ほどからずっと外を眺めている。
やはり、海賊は海に惹かれるのだろうか。
「夜の海は真っ暗でしょ・・・それとも、何か見えるの?」
するとエースはクレイオを振り返り、笑みを浮かべた。
「波の上で月の光がゆらゆらしてんだ。船の上だと気づかねェけど、きれいなもんだなって思ってた」
見れば、確かに月が海を照らしている。
それを見つめながら思うのは、次の航海のことなのだろうか。
エースがここに立ち寄ったのは、ただログを辿ってきたからに過ぎない。
彼にとっては何の目的も、価値もない場所だから、明日出航したらもう二度とここへは戻ってこないだろう。
クレイオには、どこか遠くの海で“火拳のエース”としてその名を轟かせる海賊を見守ることしかできない。
「・・・エース」
“行かないで”とは、どうしても言えなかった。
思うままに生きるエースの心に、自分の居場所などあるはずがないのだから。