第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
夏祭りに行ってはいけないとエースに伝えると、案の定、不服そうな顔をした。
「だって、この島の一大イベントだろ?」
「そうだけど、うちで大人しくしていなさい」
「オイオイ、海賊と言ったら宴だろー」
「海賊だからよ! この夏祭りは海軍主催なの。賞金首のあなたが行ったらすぐにバレるわよ」
しかし、エースはまだ納得していないようだ。
口を尖らせながらクレイオを恨めしそうな目で見ている。
「もしバレたら、そん時はそん時じゃねェか」
「大勢の人がいる中で戦闘でも始める気? ダメよ、絶対に!」
「お前・・・海賊から宴を奪ったら何にも残らねェぞ・・・」
「それに! もし・・・もしも・・・」
今、島で囁かれている噂はきっと海軍の耳にも入っているはず。
島の人には分からないようにこっそりと警戒態勢を敷かれていてもおかしくないんだ。
「・・・殺されたらどうするの」
不安そうに俯きながら、消え入る声で言ったその言葉。
その時エースは初めて、クレイオの本心を見たような気がした。
「クレイオ」
───初めて出会った時、クレイオはエースにこう言った。
“あなたが私を殺さないという証を見せて”
「おーい、クレイオ。こっち向け」
彼女にとって海賊とは、極悪非道で残忍な輩。
自分は恐れの対象でしかないはずなのに。
「お前、自分で言ったことに照れてんのか?」
自分の身を案じてくれるのか。
なぁ、お前・・・おれに死んで欲しくねェのか?
生きていて欲しいのか?
そんな彼女を想うと、温かい気持ちを覚える。
「・・・照れてなんかない!」
「意地っ張りだな」
エースは荷物を抱えながら、大きな笑みを浮かべた。
「分かった、祭りは諦める! その代わり・・・」
「・・・その代わり?」
「お前も祭りを諦めてくれねェか?」
最後の夜、クレイオと過ごせるのならば・・・
大好きな宴も諦めよう。
「───お前と一緒にいたい」
潮風が二人の間を吹き抜ける。
もうすぐ日が暮れようとしていた。
そして・・・
エースの左手首にあるログポースも少しずつ、その指し示す方角を変えようとしていた。