第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
エースが島にやってきてから3日目。
左手首に肌身離さずはめているログポースはきっと、今晩には“バナロ島”への方角を示すだろう。
「今日は学校ねェのか?」
「ええ。今日は夏祭りの日だから、この島では祝日になるの」
「ふーん、そっか」
エースは朝食の卵焼きに被りつきながら残念そうな顔をしていた。
もし、今日も授業があったら一緒に学校へ来るつもりだったのだろうか。
まったく、勉強好きな海賊なんて、この人はいったいどこまで“常識外れ”なんだ。
「お祭りは日暮れと同時に始まる。必要なものをそろえておくなら昼間のうちにしておかないとね」
「必要なもの?」
クレイオはエースの左手首に目を落とした。
まだ針は真下、つまりこの島を指している。
「ログが溜まったらすぐ出発するんでしょ?」
「ああ、そのつもりだ」
「バナロ島へは帆船で一週間の距離よ。それまでの食料を買いに行った方がいいんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
エースはしばらく黙って口をもぐつかせていたが、パンを飲み込むとニコリと笑う。
「クレイオ・・・ありがとな」
唐突すぎる感謝の言葉に、もう少しで皿を床に落としてしまいそうになった。
クレイオが驚いた顔で振り返ると、エースは優しく微笑んでいた。
「お前には本当に世話になった。まさか・・・バナロ島の前の島でお前みてェな奴に出会えるとは思っていなかったよ」
「別に・・・大したことはしていないけど」
そんな風に言われると、明日はもう彼がここにいないという現実を突き付けられるようだ。
“嫌だ”と思う気持ちを必死に堪えながら、何でもないことのように振る舞う。
「ねェ、エース・・・あなたはいったい・・・」
どこを目指して旅をしているの?
バナロ島があなたの最終目的地なの?
旅が終わったら“白ひげ”のもとへ帰るの?
込み上げてくる質問を押し殺し、それ以上は何も言わずエースに背を向ける。
「・・・本当に、意地っ張りな女だ」
そんなクレイオに、エースはカフェオレを飲みながら少し残念そうに瞳を揺らした。