第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
エースが眠りに落ちる頃、クレイオは夢を見ていた。
それはこの島と気候が良く似た、“別の島”。
クレイオは岬に立ち、軍艦が止まっている港を見下ろしていた。
その腹の中には小さな命を宿している。
「まだよ・・・まだ生まれてきてはダメ・・・」
それはとても不思議な力だった。
大切な人が残した命を守るため、自分の命を削っていく。
そんな彼女の周りには、赤いハイビスカスが咲き乱れていた。
そして・・・これほどまでに大切な我が子でも、この手で育てることはできないことを知っていた。
「オギャー!!!」
死を覚悟して生んだ赤ん坊は、元気で可愛らしい男の子。
「女の子なら『アン』・・・男の子なら・・・・・・・『エース』・・・彼がそう決めてた・・・」
嬉しい。
愛おしい。
会わせてあげたかった。
抱かせてあげたかった。
様々な感情を押し殺し、口元に笑みを浮かべる。
「───この子の名は・・・『ゴール・D・エース』」
まるで“記憶”のようなこの夢で、初めて出てきたはっきりとした名前。
「───彼と私の子・・・」
優しくキスをし、愛する人が海賊以外で一番信頼をおいていた男に赤ん坊を託した。
「ゴール・・・D・・・・・・」
朝の日差しが目に刺さり、クレイオは悲しくも美しい夢から覚めた。
「朝・・・?」
あまりにも眩しいので窓を見てみると、昨日確かに閉めたはずのカーテンが空いている。
そして、窓ガラスの向こうでは夢に出てきたものとそっくりなハイビスカスの花が揺れていた。
そして・・・
「エース・・・」
まるで母の温もりを求めて来たかのように、クレイオの腹のところで突っ伏している。
上半身を起こしてみても、まだ深い夢の中なのかまったく起きる気配がなかった。
「また勝手に入ってきたのね」
無邪気なその寝顔を見ていると、心の底から愛おしさが込み上げてくる。
髪を撫でてやれば、くすぐったそうに“ん・・・”と声を漏らした。
「エース・・・」
身体を屈め、そっと顔を近づけてみると、夢の中で抱いた感情が蘇ってくるようだ。
クレイオは“彼女”が赤ん坊にしたように、その額にキスを落とした。