第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
その日、クレイオはエースを疑うことなく家に泊めた。
海賊であろうと、町の人から愛され、子ども達から愛される彼は、悪い人間ではない。
そんなこと、初めて出会った時から分かっていたというのに。
どうしても認められなかったのはきっと、海兵だった父への思いが邪魔していたのかもしれない。
いや・・・違う。
“怖かった”のかもしれない。
エースを愛してしまうということを。
キィー・・・
深夜2時。
寝静まったはずの部屋のドアが、ゆっくりと開く。
昨夜と同じように別室のソファーに寝床を用意してもらっていたはずのエースが、クレイオの寝室の前に立っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
エースは音を立てないように中に入ると、ベッドの脇にイスを置く。
そして、寝息を立てているクレイオの顔をじっと見つめた。
この島に来てからずっと不思議だった。
クレイオを見ていると何故か心の奥がザワつく。
意地っぱりで、二人きりだと滅多に表情を緩めることのないクレイオだが、たまに笑顔を見せられた時には抱きしめたい衝動に駆られる。
「こんな気持ちになったのは初めてだ」
今、いったいどんな夢を見ているのだろう。
昨晩もずっと寝顔を見つめていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
静かに眠るクレイオの頬はとても柔らかそうで、唇はとても甘そうで。
自分を産むために命を落とした母もそうだったのだろうか。
“世界が驚くような、大きなことをできる人間は少ない。けれど、誰の目にも留まらない小さなことを、心から大切にできる人間も少ない”
「クレイオ・・・お前は・・・」
“大きなことでも、小さなことでもいいんです。ただ、信念を持ってやってください”
「おれが“鬼の子”と知っても・・・同じことを言ってくれるか?」
他人に恐怖を与えてでも、自分の生きた証を残そうとしている、このおれを───
お前は、愛してくれるだろうか。
「クレイオ・・・・・・」
エースはクレイオの腹に額を寄せるようにして、ゆっくりと瞳を閉じた。