第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
家までの道すがら、エースはずっと上機嫌だった。
鼻歌で“ビンクスの酒”を歌い、道端に咲いているハイビスカスを見かけるたびに指でちょんちょんと花弁を触っている。
「お前の授業、面白かった。あれなら毎日受けても飽きねェな」
「お世辞はやめて」
するとエースはクレイオを振り返り、口を“への字”に曲げる。
「ガキの前ではあんなにニコニコしてんのに、どうしておれの前だとそう意地っ張りなんだ」
「べ、別にそういうわけでは」
「まァ、どっちでもいいけどよ」
教壇に立つクレイオはいつも微笑んでいた。
きっと、教師という職業は彼女にとって天職なのだろう。
子ども達一人一人に愛情を注いでいる姿を見ていると、エースはなんだか心が苦しく、そして温かくなっていった。
「エースは意外と子ども好きだったのね」
「まあ、ただでさえ出来の悪い弟がいるからな。おれ達があんくらいの時、学校なんて行くような生活はしていなかった」
「へえ・・・働いていたとか?」
「イヤ、山で猛獣倒して食ったり、チンピラから金を巻き上げて海賊貯金をしてたり」
「・・・・・・・・・・・・」
それは・・・聞かなかった方が良かったかもしれない。
「そんなおれと違って、ちゃんと学校で授業を受けているガキも“海賊になりたい”って言うのには驚いたぜ」
「夢には、境遇なんて関係ないんじゃない?」
「・・・そうだな。本当に・・・そうだ」
“世界中の奴らがおれの存在を認めなくても、どれ程嫌われても!!!”
“大海賊になって見返してやんのさ!!!”
“おれの名を世界に知らしめてやるんだ!!!”
「さっき、お前が言ってたことだけどよ───」
「え?」
クレイオが首をかしげると、エースは伝えようとしていた言葉を飲み込み、代わりにニッと笑みを浮かべた。
「いや、なんでもねェ。なぁ、でっかい肉買って帰ろうぜ。腹減った」
「じゃあ、どっかの山で何か狩ってきてよ。自分で食べる肉は自分で用意して」
「おう、いいぜ! 熊だろうがイノシシだろうが、でっけェの倒してきてやる」
「じ、冗談よ!! やめて!!」
ぎゃはははと笑いながら走るエースと、それを追いかけるクレイオ。
その二人を赤い夕陽が優しく包み込んでいた。