第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「みんな、聞いて」
この大海賊時代にあって、海を自由に旅する海賊は憧れの存在だろう。
でも、一つだけ分かって欲しい。
「確かに海賊王ゴールド・ロジャーは、偉業を成し遂げた人物かもしれない。みんなが憧れる気持ちも分かります。でもね・・・」
生徒一人一人の顔を見てから、最後にエースへ目を向ける。
“火拳”は静かな瞳でクレイオを見つめていた。
「世界が驚くような、大きなことをできる人間は少ない。けれど、誰の目にも留まらない小さなことを、心から大切にできる人間も少ない」
海兵でありながら、海賊と戦うことなく沈没事故で死んでいった父。
彼は何も、海軍で名を上げようとはしていなかった。
大海賊時代をその手で終わらせようという大志もなかった。
ただ、故郷の島を守りたい。
そう願っていた、名もない海兵。
「空気は透明で、目で見ることはできません。でも、確かにそこにあります」
見上げれば、必ず北の空で輝いている北極星のように。
「“火”はとても強い力。人を殺すほどの威力なのに、それが無ければ人は生きてはいけません。でも、空気がなければ火は消えてしまう。そうでしたよね?」
そうやって、人知れず私達を守ってくれている。
「私は、大きなことをやろうとする人も素敵だと思うけれど、目に見えないことを人知れずやろうとする人も素敵だと思います」
この世の全てを手に入れながら、処刑されていった海賊王。
今際の際に微笑んだという彼が本当に幸せだったのか、何一つ悔いを残していなかったのか、私には分からない。
そういう生き方が正しいとも分からない。
でも・・・
「大きなことでも、小さなことでもいいんです。ただ、信念を持ってやってください」
大きな力に屈服するのではなく、小さな力を無視するのでもなく。
自分の心を信じ、大切だと思ったことをやっていって欲しい。
「たとえ海賊になろうと、海軍大将になろうと、町の掃除人になろうと、あなた達は先生にとって大切で、愛しい教え子達です」
エース・・・あなたも今日、私の授業を受けた。
だから、大切な“教え子”。
クレイオの気持ちが届いたのだろうか。
エースは一番後ろの席で微笑んでいた。