第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
ゾクッ!
その瞬間、クレイオの背筋に寒気が走る。
「・・・・・・・・・」
エースは押し黙っているものの、決して怖い顔をしているわけではない。
それなのに、この冷たさはどこからくるのか・・・
すると突然、昨晩の夢で見た男の声が蘇った。
“残念ながら、その頃おれはもうこの世にいねェ!!”
あの暗くて澱んだ空気の地下牢が目の前に浮かぶ。
まるで夢ではなく・・・一つの“記憶”のように鮮明と。
“おれの子を頼んだぜ!!”
これはいったい、誰の記憶・・・?
クレイオがエースに目を向けた、その時だった。
“女の子なら「アン」・・・男の子なら・・・・・・・「エース」・・・彼がそう決めてた・・・”
弱々しい女性の声が耳に響く。
命が尽きようとしているのか、彼女の言葉は途切れ途切れにしか聞き取れない。
それでも、最後の一言だけははっきりと聞こえた。
“───彼と私の子・・・”
“彼”とはいったい誰のことを指しているのか、クレイオには分からなかった。
しかし、どこからともなく優しい気持ちと、愛しさが込み上げてくる。
「先生? どうしたの?」
「・・・え?」
教壇の前に座っている女の子に声をかけられ、ハッと我に返る。
夢・・・白昼夢を見ていたのか?
「顔色が悪いよ、だいじょうぶ?」
「ごめんなさい、何でもないわ」
教室ではまだ、男の子の生徒を中心に“白ひげ”と“海賊王”のどちらがすごいかという議論が繰り広げられている。
そのうちの何人かは“海賊になる!”と息巻いていた。
クレイオはため息を一つ吐いてから、パンパンッと手を叩く。