第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「お兄ちゃん、グラウンドラインじゃない海に行ったことあるの?」
「ああ。おれはイーストブルーの育ちだ」
「かっこいいー!!」
東西南北の海にしてみれば、グランドラインこそが“偉大なる航路”。
しかし、簡単に航海できない海だからこそ、子ども達は“外の海からやってきた”ということに目を輝かせていた。
「じゃあさ、海賊を見たことある?」
「ああ、あるぜ。いーっぱいな」
「すげェ!! やっぱり怖いの? お兄ちゃん、戦った?」
エースは子ども達の質問に答えてもいいかと、クレイオをチラリと見た。
残念ながらクレイオが何言っても生徒達はもう授業に集中してはくれないだろう。
仕方なく、“いいわよ”と頷いて見せる。
「海賊はそうだな・・・いろんな奴がいる。戦ったこともあるぞ」
「うおー! じゃあ、どの海賊が一番強かった?」
クラスの半分を占める男の子達はもう、エースの話に釘付けだ。
やはりこの時代、“海賊=冒険”なのだろうか。
「そいつァもちろん、“白ひげ”だ」
「白ひげに会ったことあるの? すごい!!」
生徒達も知っていたことが嬉しかったのか、エースはとびっきりの笑顔で頷いた。
「白ひげは最高の海賊だ。世の中の奴にとっては怖いかもしれねェがな」
「へェ! じゃあ、あの有名な海賊王とどっちがすごい?」
「海賊王・・・?」
その瞬間、エースの顔がわずかに強張る。
まるで、“あの時”のように───
“ゴール・D・ロジャーを・・・どう思う?”
クレイオにそう質問した時も、エースは表情を曇らせていた。
「・・・顔も見たことがねェ悪党のことなんか、おれには分からねェな」
「ふーん・・・」
だが、子どもというのは無邪気にして残酷なもの。
「でも、海賊王の方がすごいよ! 世界一の財宝を手に入れたんだから!」
一人の生徒の言葉に、エースの眉間にシワが寄った。