第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
エースはものすごく真面目な授業態度だった。
「ふーん。“普通”は、ものが燃えるためには酸素が必要なのか」
しっかりと蓋を閉じたビンの中では、ロウソクの火が次第に消えていくという実験を、エースはとても興味深そうに見つめている。
「そう。でも、こうしてビンの蓋を開けてあげると空気が入って、火はまた強まるのよ」
「確かに、おれも空気がない所じゃ能力を発揮できねェもんな。海の中とか」
「エースくん!」
「あ、わりィ」
子ども達に“悪魔の実”の能力を知られたら大変だ。
彼の力は特に危険なものだから。
「能力? お兄ちゃん、魔法が使えるの?!」
「あーいや、何でもねェんだ」
クレイオがギロリと睨むと、エースは後ろ頭を掻きながら苦笑いで誤魔化した。
エースがどのような生い立ちかは知らないが、“学校が初めて”というのは本当だろう。
読み書きや簡単な計算など、生きていく上で必要な知識は備えているものの、歴史や科学など戦闘や航海に必要ない知識はほとんど無い。
だからなのだろうか、エースはどの生徒よりも熱心にクレイオの言葉に耳を傾けていた。
そして、その日最後の授業でのこと。
星の勉強で、北極星について学んでいる時だった。
「北極星は人間の目にはほとんど動かないように見えるから、正確な北の方角を教えてくれる。私達がいるグランドライン以外の海では、航海を支えてくれる大事な星なの」
天候が変わりやすく、時には空すらもその姿を変えてしまうというグランドラインでは、星を指標とすることができない。
「他の海ではログポースを使わないの、先生?」
「そうよ。星や、羅針盤、海図などを見て航海するの」
まだ10歳に満たない子供達にとって、グランドライン以外の海は未知の世界。
島と島を引き合わせる磁気を頼りに航海するこの海とはまったく違うから、いまいちイメージがわかないのだろう。
「面倒臭いんだなァ、他の海って」
「いや、そうでもねェぞ。ここと違って自由に好きなところへ行ける」
エースがそう言うと、生徒達はいっせいに後ろを振り返った。