第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
“じゃあ、行ってくるから。もし出ていくなら戸締りをしていってよ”
クレイオがそう言って家を出た時は、エースも“ああ、分かった”と素直に手を振っていたはずだ。
なのに学校に着いて教壇に立ってみたら、一番後ろの空いている席にドカッと座り、ニコニコしていた。
ここは8歳から10歳の生徒のクラス。
身長185センチの男はどう見たって場違いなのに、クレイオが何かを言う前に生徒達に挨拶してしまったから、もう追い出すことができない。
Tシャツを着て、背中の海賊マークを隠していることだけがせめてもの救いか・・・
「なんでお兄ちゃん、ぼく達と一緒に勉強するの?」
「なんだか楽しそうだと思ったからだ。よろしくな」
「勉強が楽しそうだなんて、変なお兄ちゃん」
「そうか? 学校は初めてだから、わかんないところがあったら教えてくれよ」
エースがそう言うと、年上のお兄ちゃんに頼られたことが嬉しかったのか、生徒達は“任せてよ”と胸を張っていた。
さっそく子ども達と打ち解けてしまう、その人懐っこさには本当に恐れ入る。
しかも、生徒全員がいつになく張り切っているようだ。
良いことではあるのだが・・・
クレイオはため息を吐きながら教科書を開いた。
「・・・では、授業を始めます」
「はーい」
声をそろえて返事する子ども達と一緒に、礼儀正しく手を挙げながら返事をするエース。
どこまで本気なのか分からないが、少しでも授業の邪魔をするようだったら追い出そう。
「ちょっとでも邪魔をしたら教室から出ていってもらうからね、“エース君”!」
「へーい、“クレイオ先生”」
どうせ冷やかしでここに来たのだろう。
きっとすぐに飽きるはず・・・そう思っていたのに。