第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
その夜、クレイオは不思議な夢を見た。
太陽の光が一切届かない、冷たくて汚物の匂いが立ち込める地下牢。
鉄の輪がはめられた手足は、重たい鎖で壁に繋げられている。
なぜ、自分がここに閉じ込められているのか、クレイオには分からなかった。
石壁に取り付けられたランプの中のロウソクが、燃え尽きようとしている。
自分はいったいどんな罪を犯したのだろう。
ここから出ることができるのだろうか。
いや・・・違う。
ここから出たいとは、思っていない。
この先に待ち受ける運命を、静かに享受しようとしている。
ガチャン。
遠くの方でドアが開く音がした。
そして、コツコツと歩いてくる音。
ああ、この足音の主を自分は知っている───
クレイオは微笑んだ。
牢の前でその足音は止み、檻の向こうから手提げランプの灯りがこちらを照らす。
残念ながらその人物の顔は見えない。
それでも、“彼”がここに来てくれたことが嬉しかった。
こちらをジッと見つめている男に、クレイオが言葉をかける。
「ガキが生まれるんだ」
それは確かにクレイオが口を動かしたはずなのに、どこかで聞いたことがある男の声で響いた。
「残念ながら、その頃おれはもうこの世にいねェ!!」
嬉しい。
愛おしい。
会いたい。
抱きたい。
様々な感情を押し殺し、口元に笑みを浮かべる。
「生まれて来る子に罪はない!!」
だから、海賊ではない人間の中で、一番信頼のおける男に託す。
「おれの子を頼んだぜ!!」
この暗い牢から出る時、自分は死ぬ。
顔を見ることすら叶わない我が子に願うことは、たった一つ。
生きて欲しい。
誰よりも自由に───
「・・・・・・・・・・・・」
コツコツと足音が去っていく。
果たして、自分の願いは聞き届けられたのだろうか。
クレイオはその答えを知ることもないまま、ゆっくりと目を閉じた。