第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「ところで、もう日が暮れそうなんだが」
「・・・何が言いたいの?」
ピクリと険しい表情になったクレイオとは対照的に、ニコニコとしているエース。
言いたいことはなんとなく予想が付いた。
「野宿って手もあるが、やっぱり屋根の下の寝床がいい。お前、泊めてくれよ」
「・・・町には宿もあるけれど」
「おれはここがいいんだ。お前の飯、うめェし」
「・・・本当に勝手。今日会ったばかりなのに・・・」
でも、どうしてだろう。
拒み切ることができない。
「寝床が必要なら、あなたが私を犯さないという証を見せて」
年頃の男女が一つ屋根の下にいて、間違いが起こらないとも限らない。
彼の力で押し倒されたら、クレイオにはどうすることもできないだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
食事を与える時とは違い、答えようのない条件を突き付けていることは分かっている。
これで諦めて出て行ってもらえればいいとさえ思っていた。
そうすれば自分は、この海賊に深入りしないで済む。
「まいったな」
エースは頭を掻きながら微笑んだ。
「そいつの答えは、明日の朝まで待ってもらえねェか?」
「何も証がないまま、今日は無条件で泊めろというの?」
「そういうことになるが・・・」
しかし、エースは表情を変えない。
確信に近いものを得ているようだった。
「おれは、白ひげのビブルカードを持っている人間を裏切ったりはしねェ」
この背中のマークに懸けて誓う。
「それで勘弁してもらえねェか?」
その瞬間、クレイオの心臓が大きく音をたてた。
エースは気づいている。
クレイオが海軍に自分の存在を知らせようとしていたことを。
もしかしたら、白ひげのビブルカードまで渡していたかもしれない。
そうなったら仲間全員が危険にさらされていただろう。
それでもエースは大事な人の分身をクレイオから取り上げようとはしなかった。
───彼を信じるために、それ以上の“証”があるだろうか。
「・・・分かったわ・・・」
クレイオが小さく頷くと、エースは嬉しそうに微笑んだ。