第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「とにかく! 私は教師であり、海兵の娘。だから海賊と慣れ合う気はない!」
「分からねェな。お前自身は海兵じゃないのに、なんで海賊と慣れ合っちゃいけねェんだ?」
「この世界では海賊旗を掲げるだけで犯罪なのよ? あなたにその自覚はないだろうけど」
「だから、そう固いこと言うなって」
エースはイスに座ったままなのに、なぜか背を向けずには居られなくなった。
彼が怖い?
いや、違う。
このまま向き合っていたら、どんどん惹かれてしまいそうだからだ。
「───なぁ、クレイオ」
“憎むべき存在とされる人間だろうと、本当のところは実際に会ってみないと分からないのかもしれない”
「お前はおれが怖いか?」
ダメだ、振り返ってはいけない。
エースは海賊。
しかも、5億5000万ベリーもの賞金首だ。
「海賊であるおれは、お前にとって憎むべき存在か?」
その質問に、クレイオは答えることができなかった。
海賊と慣れ合ってはいけないという“常識”が最後の砦となり、二人の間に重い沈黙を落とす。
しかし、最初にそれを破ったのは、エースだった。
「悪い悪い、変なことを聞いちまったな。今のは冗談だ、気にするな」
「じ・・・冗談?」
安堵しながら振り返ると、エースはだんだん沈みゆく太陽を背に、少し切なげに微笑んでいた。