第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
駐在所を出たクレイオの目に、真っ先に飛び込んできたもの。
それは、正面の道を挟んで向こう側にしゃがみながら、モグモグと焼き鳥を食べているエースだった。
「エ・・・エース・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
エースはチラリと海軍のマークに目を向けたが、何も言わずに立ち上がり、クレイオに笑顔を向ける。
「“用”が済んだなら、帰ろうぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオが海軍駐在所で何をしていたも聞かず、何事も無かったかのように大荷物を背負いながら少し前を歩く。
そんなエースの後ろでいたたまれなくなっていると、道の向こうから10歳くらいの男の子が手を振ってきた。
「せんせー! クレイオ先生ー!」
「クレイオ先生?」
エースは首を傾げながらクレイオと子どもを交互に見ている。
ああ、タイミングが悪い・・・と思いながら、生徒に手を振り返すことしかできなかった。
「私は学校で教師をしているのよ」
「へー。だから、さっきの魚屋でも“先生”って呼ばれてたのか」
「・・・この島に教師は少ないから、あだ名のようなものなのよ」
「どっちにしろ立派じゃねェか。すげェな、お前」
本当に・・・そういう笑顔はやめてほしい。
さっき、私はあなたのことを海軍に通報しようとしていた。
それが一般市民の義務だし・・・“教育者”としてやるべきことだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく沈黙が流れると、賑やかな町を抜けたところでエースが口を開いた。
「なあ、クレイオ・・・」
堤防から見渡すことができる海に目を向け、水平線の向こうを見つめている。
「ゴール・D・ロジャーを・・・どう思う?」
それは今までの口調とは違い、とても静かで・・・絶望感さえ漂わせる声だった。