第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「もうこれだけ働いてくれたら十分。白ひげのビブルカードを貴方に返すわ」
「・・・・・・・・・・・・」
海から吹く潮風はハイビスカスを揺らしているというのに、クレイオの手の上にある紙は風に逆らうようにして一点に向かって動いている。
エースは黙ってそれを見つめていたが、急に明るい声を出した。
「なあ、バナロ島へのログはどれぐらいで溜まる?」
「ログ? 三日ほどだけど・・・」
「じゃあ、それまでお前が持ってろよ」
それは予想もしていなかった言葉で、クレイオの眉間にシワが寄る。
「ちょっと迷惑よ! 白ひげのビブルカードなんて、持っているだけで恐ろしくて仕方ない」
「ただの紙きれさ。お前を取って食うわけじゃないし、そんなに怖がらなくてもいいだろ」
「でも、じゅうぶんお礼をしてもらったから、あなたはもう好きな所へ行っていいのよ」
「だったら、なおのことお前がそれを持っててくれよ」
エースはなんだか嬉しそうに笑った。
のん気なその態度が、余計腹立たしく思えてくる。
「ログが溜まるまでの三日間、ここに泊まらせてくれ」
「はあ?!」
「おれのことがまだ怖いなら、それを使って脅せばいい」
い・・・いったい、彼は何を言っているんだろうか。
「そいつはおれにとって命より大事な男のもんだ」
白ひげへの方角を示すだけでなく、その生命力を啓示するもの。
これさえあれば、この海のどこにいても、病を患っている船長の無事を確認できる。
「そんで、おれはお前が気に入った」
真っ直ぐな瞳と、飾らない言葉。
数年後、クレイオはこの三日間のことを振り返る時、必ず思うことがある。
きっと、あの瞬間・・・自分の心は彼に奪われていたのだと。
「まったく・・・どこまで図々しいの・・・?」
だけど今はそのことに気が付いていない。
クレイオは文句を言いながらもビブルカードをポケットにしまうと、エースを家の中に再び招き入れていた。