第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「お前、ここに一人で暮らしてるのか?」
草むしりをした後は手を洗いなさい、と強制的に洗面所へ連れていかれたエースは、棚に歯ブラシが1本しかないことに首を傾げる。
この家はキッチンとリビングに加え、少なくとも3つの寝室がある。
一人暮らしにしては広すぎるようだ。
「そう、私一人。だから、泊めることはできないからね」
「まーまー、そう固いこと言うなよ」
ちゃんとタオルで拭かず、パッパッと手を振って水を切っている海賊に、クレイオは頭痛を覚えた。
「あのね、どこの世界に見ず知らずの海賊と一つ屋根の下で───」
「おっと、それより買い出しに行かなきゃな。夕飯の分まで食っちまっただろ?」
「は?!」
は・・・話がかみ合わない。
どうして彼はこんなにも自由なのだろう。
というか、晩御飯も食べるのか?!
本気でログが溜まるまでの3日間、ここに泊まるつもりなのだろうか。
「安心しろよ、お前がオヤジのビブルカードを持っている限り、おれはお前に手出しできねェんだから」
「だから、そういう問題じゃ・・・」
「ほら、行くぞ!」
なぜ、あなたが先頭を切っているの? とクレイオはこめかみに青筋を立てながら、スタスタと家から出ていこうとしているエースを追った。
「ちょっと待って! せめて上着を着て!!」
「暑いからいいよ」
「ダメ! 背中のタトゥーを隠さないと、町の人が怖がってしまう!」
「こいつはおれの誇りだ。隠すつもりはねェ」
「じゃあ、一緒に買い物は行かないし、この家からも出ていって!」
エースは少し驚いたような顔をしていたが、“出ていけ”の一言が効いたのか、持っていたリュックサックをゴソゴソと漁り始める。
そして、半そでタイプの上着を取り出して羽織ると、ニッと笑った。
「これで文句ねェな?」
その笑顔に、心臓がドキリと鳴る。
この人、そんなに泊まる場所に困っているの・・・?
それとも───
クレイオはその先を考えたくなかった。
それが、自分の願望とは思いたくなかったから・・・