第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「ハイビスカス」
その名前を聞いた瞬間、エースは不思議と懐かしさを覚えた。
見たこともない、聞いたこともない花だというのに。
「サウスブルーに咲く花よ」
ここはグランドラインだが、夏島だから群生している。
特に、クレイオの庭に咲くハイビスカスは、鮮やかな赤色をしていた。
「へえ・・・サウスブルーに咲く花、か・・・」
“南の海”といえば、母ポートガス・D・ルージュが住んでいた場所。
まったく記憶はないが、だから“懐かしい”と感じたのだろうか。
エースは背伸びをしながら立ち上がると、雑草の束を指さした。
「お前に言われた通り、抜いた草はそこに積んでおいたが、どうするんだ?」
「燃やしてしまうわ。待ってて、今、マッチを・・・」
「“燃やせば”いいんだな?」
「え?」
エースが人差し指を立てた瞬間、信じられないことが起こった。
指先から火がボッと出たかと思うと、無数の“火の玉”が現れる。
「火・・・? どこから・・・?」
「ちょっと危ねェから下がってろ」
炎はまるで、エースの身体の一部のように手と溶け合っていた。
「“蛍火”」
直径数センチほどの小さな火の玉が、いっせいに雑草の束へと飛び込んでいく。
みるみるうちに火柱が上がり、雑草を焼き尽くしていった。
「あ・・・あなた・・・いったい・・・」
人間から炎が出るなんて理解の域を超えている。
クレイオは目の前で起こっている出来事が信じられず、恐ろしい悪魔でも見るかのような目をエースに向けた。
「おれか? おれは“メラメラの実”を食った」
「メ・・・“メラメラの実”・・・?」
噂に聞く、“悪魔の実”というやつだろうか。
「だから炎を操ることなんざ、何てことねェ」
パチパチと燃える雑草からクレイオめがけて飛んだ火の粉を素手で払いながら、エースは大きな笑みを浮かべた。