第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「エース!」
「ぐー・・・」
単純作業で眠くなってしまったのか、柵の下で大の字になってイビキをかいている。
その姿に、“良かった”と胸をなで下ろした。
同時に、なぜ安堵しているのか、自分自身の感情が分からず戸惑ってしまう。
「こんなところで寝ないで」
揺り起こそうとしたが、あまりにも気持ち良さそうに寝ている。
そっとしておいた方がいいのかもしれないと思い、その手を引っ込めた。
「ぐー・・・」
エースの上では緑に茂った葉が強い日差しを遮り、涼しい陰を作っている。
太陽を向いて咲く真っ赤な花も、彼を優しく抱きしめるかのようにその周りを彩っていた。
その光景は不思議と穏やかで、見ていると心の奥がポウッと温かくなるようだ。
「エース・・・」
少しクセのある黒髪にそっと触れてみても、起きる気配はまったくない。
本当に・・・無邪気な寝顔だ。
そのまま彼を見つめていること、数分。
「んぁ・・・?」
葉が鼻先に触れたのか、エースは少しくすぐったそうにしながら目を開けた。
母親に“さあ、起きなさい”と優しく鼻をくすぐられた幼子のように無防備な仕草で目を擦りながら、そばにいたクレイオを見上げる。
「・・・寝ちまってた」
「食事中だけじゃなく、こんな所でも寝れるなんて・・・海賊はみんなそうなの?」
「んー、いや、どうだろうな・・・」
フワァと大きなあくびを一つし、もう一度クレイオを見てニコリと笑う。
「なんだかこの花を見てたらよ、こう・・・温かい気持ちになって。気づいたら寝てた」
「この花に思い出でもあるの?」
「いや、初めて見る花だよ」
雄しべと雌しべを指先でツンツンとつつきながら、“お前、なんで中から飛び出してんだ?”と呟いている。
海賊のくせに、こんなどこにでもある花を見たことがないのか?
いや、海賊だから花なんぞに興味はないのかもしれない。