第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
とはいったものの、すぐに思い当たるのは荒れ果てた庭の手入れぐらいだった。
岬の上に建つクレイオの家には、大きくはないが海に面した庭がある。
一年を通して熱帯気候のこの島では、少しでも草むしりを怠るとすぐに雑草で覆われてしまう。
「へえ、こりゃ手強そうだな」
数週間の放置で、ここまで荒れるとは。
雑草はそれぞれが膝ぐらいの高さまで伸び、茎もかなり太くなってしまっている。
「キッチンからこの庭が見えるからずっと気になっていたんだけど・・・忙しくて」
「任せとけ、地面から生えている草を全部引っこ抜けばいいんだろ?」
「そう。でも、柵の所に生えている花は取らないでね」
「花?」
エースは、庭と崖の境目に生えている2メートルほどの低木に気づき、無意識に目を細めた。
海から吹いてくる潮風から家を守る役目も果たしているそれは、真っ赤な花を咲かせている。
「・・・ああ、分かった」
ニコリと微笑み、腕を回しながら庭に出ていくエース。
正直、庭仕事なんて嫌がるだろうと思っていた。
地面から雑草を抜くだけの単純な作業、彼にとっては退屈なだけだろう。
しかし、エースは思いのほか黙々と仕事をこなし、みるみるうちに雑草の山が積み上げられていく。
しゃがみながらせっせと草を抜いているその背中には、大きな白ひげの刺青。
海賊でさえなければ、彼は逞しい好青年なのに・・・と、エースが使った大量の食器を洗いながらクレイオは思った。
そして、全て洗い終わった後、庭に出てみるとそこは30分前の景色から随分と変わっていた。
「わ・・・見違えた・・・」
伸び放題だった雑草は全て根こそぎ抜かれ、きちんと一カ所にまとめられている。
しかし、肝心のエースの姿が見えなかった。
「エース?」
・・・いったい、どこへ行ったのだろう?
まさか、崖から落ちたというわけではないだろう。
グルリと見渡すと、柵の下から二本の足が伸びているのが見えた。