第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「はあ~、食った食った! こんなうまい飯は初めてだった」
クレイオの三食分の量を軽く胃袋に収めると、エースはパンッと両手を合わせて“ごちそうさまでした”と言った。
「なにそれ、お世辞?」
「いや、本当にうまかった。ありがとな」
海賊のくせにそんな無邪気な笑顔を見せられたら、どうしていいか分からなくなる。
誰かに見られる前に出ていってもらわなければいけないというのに・・・
「満足したなら、もう行ってちょうだい」
「そうはいかねェ」
エースは爪楊枝を咥えながらクレイオを見つめた。
その眼差しに一瞬ドキリとしたが、それを悟られないように視線を逸らす。
「飯をくれた礼に、何でも言うことを聞くよ」
まさか、海賊の口からこのようなセリフが出てくるとは思いもしなかった。
律儀なのは素晴らしいことだが、正直、この家に海賊がいるなんて知られたくない。
「お礼の必要はないわ。それより早く出ていって」
「そういう訳にはいかねェ。世話になったんだからな」
「私を殺さないという約束だけ守ってもらえたら、後は何もお願いすることなんてない」
「オイオイ・・・何かあんだろ、力仕事でもなんでもいいぞ」
確かにこれだけの筋肉なら、力も相当なものだろう。
かといって、何を頼むというんだ?
長居されて困るのはこっちだ。
だけど、エースの方も引き下がる様子はまったくない。
「世話になった奴には必ず礼をしろって、弟にもそう言い聞かせてるんだ。だから頼むよ、何でもいいから言ってくれ」
「弟・・・?」
「ああ! あいつも海賊やってんだ」
そう言ったエースはとても誇らしそうで、どれほど弟のことを大事に思っているのか、その笑顔からうかがい知れる。
「・・・・・・・・・」
やめて欲しい、そういう顔をするのは。
この人は海賊・・・
分かっているはずなのに、悪い人間とは思えず、拒絶することができなくなってしまう。
「・・・そんなに言うなら、頼みたい力仕事があるわ」
そう言った手前、彼に頼むような仕事は見つかっていない。
「おう、任せろ!!」
しかし、嬉しそうに胸を張るエースを見ていたら、追い出すことなどできなくなっていた。