第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
ザザーン、ザザーン、と波の音が響く。
市場にはあれだけ人がいたのに、今、この砂浜には自分とエースしかいない。
この島に一人で来たという言葉は本当だろう。
海のどこを見渡しても、白ひげが乗っていそうな大帆船は陰も形もない。
もし・・・彼の存在がまだ誰にも気づかれていないのなら・・・
クレイオはゆっくりと瞬きをしてから、もう一度、男の顔を見つめた。
「本当にお腹がすいているの?」
「夜にリンゴを一つ食ったきりだ」
「そう・・・じゃあ・・・」
もし義務を果たさなかったら、海軍はそれを咎めるだろうか。
自分は罪に問われ、両親を“裏切る”ことになるだろうか。
そうだとしても・・・
今、その義務を果たすことを拒んでいる自分がいる。
「お腹すいてるなら、あなたが私を殺さないという証を見せて」
クレイオは会ったばかりの海賊に、手を差し伸べることを決めた。