第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
海賊とは・・・
少なくともクレイオが思う海賊とは、航行中の商船を襲い、島に上がれば集落を荒らし、金、食料、酒、女を奪っていく、極悪非道の輩。
「気を悪くさせちまったなら謝るよ」
自らの力を誇示するために平気で人を殺し、自らの欲求を満たすために平気で嘘を吐く残忍な輩のはず。
なのに、目の前にいる“白ひげ海賊団”の男は・・・
「じゃあ、こっから一番近い飯屋を教えてくれ」
相手は女一人、脅迫し持っている食料を奪っていくことも簡単にできただろう。
しかし、それをしないで頭を下げている。
そんなエースにクレイオは驚きを隠せなかった。
「あなた、海賊でしょ・・・堂々とレストランに入るつもり?」
「ああ、いつもそうしている」
当然のことのように言っているけれど、その背中の大きな白ひげ海賊団のマークを見たら大抵の人間は怖がってしまう。
それに・・・この島にだって海軍はいる。
「白ひげの仲間がこの島にいるって知られたら大騒ぎになるわよ。それとも何か目的でもあって来たの?」
「この島にきたのはおれ一人だし、目的はこの次の島にある。騒ぎを起こすつもりなんかねェよ」
その言葉が真実かどうかは、クレイオには関係ない。
そもそも、この男を捕まえるのは海軍の仕事だ。
クレイオに義務があるとすれば、“白ひげ海賊団の一人がこの島に来ている”と海軍に通報すること。
そう、“義務”だ───
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、なぜかエースを見ていると、大声を上げて海賊の存在を周囲に知らせることができなかった。