第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「それにしてもお前の荷物、いい匂いがするな」
「え?」
「実はここ数日ずっと海の上だったからマトモな飯を食っていなくてよ」
それを裏付けるかのように、腹がタイミング良くグゥーと大きな音を鳴らす。
エースはどうやら、朝市で買ってきたパンに興味を示しているようだった。
「だから・・・何?」
相手が海賊と知ってからクレイオは警戒心を強めているというのに、エースはまったく意に介していない様子で、人懐っこそうな笑顔を崩さない。
「腹減ってるんだ、何か食いもんはねェか?」
「何かって、家に帰らないとないわよ」
「じゃあ、お前の家に行ってもいいか?」
なんって図々しい男なのだろう。
普通、初対面の人間にいきなり家へ行っていいか、など聞かないだろう。
いや・・・海賊なのだから、“普通”とは違うのか。
この男はきっと、招かれざる宴会も勝手に参加してしまうような図太い神経を持っているのかもしれない。
「見ず知らずの・・・しかも、海賊の男を家に招くとでも?」
こんな言い方をすれば逆上するかもしれないという考えもよぎったが、残念ながらクレイオは物怖じするような可愛らしい性格をしていなかった。
気を悪くさせることを承知で、冷たい口調できっぱりと言い放つ。
「・・・・・・・・・・・・」
それまでの空気が一瞬にして変わった。
エースは少し驚いたようにクレイオを見つめている。
そして、次の瞬間。
「そっか、そりゃそうだ。悪かった!」
驚くことに、彼には少しも気分を害した様子はなく、笑顔すら見せていた。