第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
伝えるべき言葉は伝えた。
ルフィが“さーて、おれも戦うか”と肩を回していると、ナミが笑顔を向けてくる。
「あそこに立っているのがクレイオ? 素敵な人じゃない」
「ああ、そうだ!」
すると、砲弾を真っ二つに斬ったばかりのゾロも岬の方へ目を向け、口の端を上げた。
「へぇ。ルフィが気にするぐらいの女だから、どんな奴かと思ったが・・・」
「やめろ、クソマリモ。レディに野蛮な目を向けるんじゃねェ」
「んだと?!」
ケンカを始めたゾロとサンジの隣では、チョッパーとウソップがクレイオに手を振っている。
「いいなー、今度おれもクレイオの飯食ってみたいなあ」
「また来れるさ! そん時はおれも勇敢な海の戦士だ」
すると、ロビンとブルックも口元に笑みを浮かべた。
「今度ゆっくりとお話してみたいものね」
「ヨホホホホ、では私からクレイオさんへ一曲・・・」
ブルックのバイオリンが陽気な音楽を奏でると、辺りはさらにキラキラと輝き始めた。
岬に立ち、船出を見送る老婆。
果たして、本当に海賊達にはクレイオがそう見えているのだろうか。
「な、いい女だろー!!」
胸張ってそう言うルフィに、異論を唱えるものは誰もいない。
「ああ、いい女だ」
相槌を打ったゾロもまた、“真夏の夜の夢”を見ているのか。
「今度は弁当じゃなくてちゃんとフルコースを用意するぜ」
そう言ったサンジには、岬まで距離がありすぎて彼女の姿形がはっきりと見えていないのだろうか。
いや、違う。
「本当、目が素敵な人」
「そうだろ、ナミ!」
この船に乗る仲間達は常に、ルフィと同じ方向を見据えている。
その彼らの瞳に映るものもまた、船長と同じ。
だからこそ、一緒に命を懸けることができる。
だからこそ・・・
同じものを見て、同じように“美しい”と思うことができる。
「お前は醜くねェ・・・生きろよ、クレイオ」
ルフィと“麦わらの一味”の目に映る、岬の上の人物。
それは、島と海から守られた一人の美しい少女だった───