第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「ルフィ・・・私・・・」
「ほら、お前の目、すごくきれいな色だろ」
一緒に泉を覗き込みながら、ルフィは嬉しそうに笑った。
「し・・・信じられない・・・」
「お前が信じようが疑おうが、おれはどっちでもいいけどよ」
クルリとクレイオの身体を回し、今度は向かい合わせになるようにして腰を抱く。
「おれはお前に触りたいって思うし、キスもしてェって思うぞ」
不思議と・・・
泉に映る少女は、見たこともない顔なのに、まったく“知らない”顔ではなかった。
そう、17歳の頃、“こんな顔に生まれたかった”と鏡を覗きながら夢見た顔だ。
たとえこれが夢だとしても・・・
今、自分を抱いているルフィの腕は確かにここにある。
今、ルフィの瞳にはしっかりと自分が映っている。
「貴方は・・・いったい、なんなの?」
人間・・・?
それとも、憐れな老婆に美しい夢を見せるために現れた妖精?
「別になんでもいいよ」
ししし、と笑う少年。
柔らかな月光を背に、そのまま消えてしまいそうだ。
怖くなって赤いベストを掴むと、ポンポンと頭を撫でてくれる。
「今はお前とおれ、ちゃんと一緒にいるぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
涙が溢れて仕方がない。
悲しいのではない。
幸せだと思う気持ちが、涙をあとからあとから溢れさせる。
生まれて初めて男性の腕に抱かれ、生まれて初めて自分を“美しい”と思えることができたんだ。
「クレイオ」
そんな彼女の唇に、ルフィの唇がゆっくりと重なる。
今度は不意打ちではなく、しっかりと瞳を見つめながら。
「おれのこと、忘れんなよ・・・クレイオ」
海に架かる“月の道”が消えたら、二人はまた別々の道を歩む。
それでも、こうして一緒にいた時間と温もりは、忘れないで欲しい。
生きろ、クレイオ。
おれが海賊王になる、その日まで。
「ルフィ・・・ありがとう・・・」
“月夜にふたこぶ山の頂上から一緒に海を見下ろして、もし光の道を見ることができたら、その二人は結ばれるんですって”
その言い伝えは本当だった。