第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「あった、あった」
彼が探していたのは、小さな泉。
木々の間から月明かりが差し込み、透明な水に光が反射している。
ルフィはクレイオを地面に下ろすと、手を引いて泉のそばに連れてきた。
「ここに自分の顔を映してみろ」
「・・・いやよ」
今更、醜い顔を自分で確かめろというのか?
どうしてわざわざ惨めな気持ちにならなければいけないの。
顔を背けていると、ルフィはクレイオの顔を再び覗き込み、ニコリと微笑んだ。
「おれの目にお前はどう映っているのか、確かめてみろ」
「・・・・・・・・・・・・」
ルフィの目に、自分がどう映っているのか・・・?
それを知ったところで現実を突きつけられるだけだろうが、何を言っても彼はクレイオが泉に顔を映すまでは引かないだろう。
仕方なしに静かな水面を覗き込んだ、クレイオの瞳に飛び込んできたもの。
それは、彼女の想像を遥かに超えていた。
「・・・え・・・?」
月に照らされた泉に映るのは、ルフィの瞳に映る自分の姿のはず。
「これは・・・誰・・・?」
心臓がドクンドクンと大きく鼓動し、言葉がうまく出てこない。
すると、ルフィが後ろからクレイオの身体を抱きしめた。
「“お前”だよ」
水の中にいたのは、老婆ではなかった。
白く滑らかな額、くっきりとした二重とまつげに縁どられた鳶色の瞳、スッと筋が通った形良い鼻、バラ色の唇、透き通った肌・・・
水の中にいたのは、まさにこれから大人の女性へ花開こうとしている17歳の少女だった。
「嘘だ・・・これが私なわけがない・・・!」
もしルフィが抱きしめていてくれなかったら、驚きのあまりそのまま泉の中に落ちてしまっていただろう。
水面に映ったこの少女・・・“彼女”が今、ルフィの瞳に映っている人物なのか?