第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
濡れた両頬を包む、温かい手。
顔の形や皮膚の感触を確かめるように、輪郭に沿ってペタペタと触れていく。
「・・・ル・・・フィ・・・?」
名を呼ぶと、確かに見えていたはずの月光がふと消えた。
いや、消えたのではない。
月とクレイオの間に何かが現れ、視界が遮られていた。
その正体を突き止めるよりも先に、フワリと生まれて初めての感触が唇に広がる。
それは、少しかさついていて・・・
柔らかくて・・・
そして温かかった。
「おれがいつ、お前に触りたくねェって言った・・・?」
唇を重ねたまま、ルフィはクレイオの頬を撫でる。
「おれがいつ、お前にキスできねェって言った・・・?」
少年は、驚きのあまり言葉を失っているクレイオの手を握ると、すくっと立ち上がった。
その顔はどこか不満げだ。
「おれのことを、お前が勝手に決めんな!」
そう言ってクレイオを抱き上げ、なんの前触れもなく高さ20メートルはあろうかという大木から地面へ一気に飛び降りた。
「きゃあああああ!!!」
ただでさえ何が起きているのか理解が追いつけていないところに、自殺行為の大ジャンプ。
クレイオが悲鳴を上げるのも無理はなかった。
恐怖のあまり半分気を失いかけたが、ドスンッと地面に踏ん張る音が響いたことで、なんとか死なずに済んだことを悟る。
「な、な、何なの?!」
しかし、ルフィはお構いなしに辺りをキョロキョロと見渡し、何かを探していた。
そして、数十メートル先にお目当てのものを見つけたのか、クレイオを抱いたままそちらの方へ走り出す。