第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
ジーッと遠慮なしに顔を見つめてくる視線から、どうやって逃げればよいのか分からない。
ルフィの瞳はとても真剣だった。
「おれはお前を醜いって思ったことはねェ」
「だから、お世辞にもならないことはやめてって───」
「お世辞なんか言ったことねェって、さっきも言ったじゃねェか!」
だけど、見た人間全てが“醜い”と形容するこの顔だ。
まともに近距離で見つめることができるルフィは、ただ度胸が据わっているだけだろう。
恥ずかしさのあまりクレイオが顔を背けようとすると、ルフィはとうとう怒ったような声を上げた。
「目を閉じんな! お前もおれをちゃんと見ろ、クレイオ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前の目が好きなんだからよ!」
初めて目の前でフードを取った時も、彼は確かにそう言った。
“おれ・・・お前の目、好きだな”
「やめてよ、ルフィ・・・苦しくなるだけだから」
「なんでだよ? 好きなもんを好きだって言ってるだけじゃん」
「だって、眼球だけは普通の人と同じ形をしているってだけで・・・別に褒められるほどのものじゃない」
眉も、瞼も、鼻も、口も、唇も、頬も、皮膚も、全てが異形のクレイオ。
唯一、普通の人間と同じ形をしているものを褒められても、嬉しいどころか悲しくなるだけだ。
「貴方は優しいからそう言ってくれるけど・・・心の中では、私の顔を気持ち悪いと思っているに決まってる」
実の親ですら逃げ出すほどの醜さを持って生まれた。
「私の顔に触れたくないと思っているに決まってる」
お願いだからこれ以上、優しい言葉をかけないで。
優しい夢を見させないで。
「とても私の唇にキスなんかできないと思っているに決まってる」
目覚めた後の気持ちを考えると、あまりにも残酷だから。
「もう・・・夢から覚めて欲しい・・・」
クレイオの両目から涙が零れた、その瞬間だった。