第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「お前、自分がどんな姿をしているのか分かってねェのか?」
「どんな姿って・・・腰が曲がって、杖が無ければ歩けないほど関節も悪くなった婆さんでしょ」
・・・あれ?
不安定な木の枝の上にずっと座っているというのに、どうして腰が痛くないのだろう。
「目だって悪くなっているし・・・耳だって遠くなって・・・」
・・・あれ?
暗闇では何も見えないほど視力が落ちているはずなのに、どうしてルフィの顔も、あの遠くに浮かぶ月も、はっきりと見えているのだろう。
「体中シワだらけ・・・」
・・・あれ?
ルフィに握られている左手はまるで少女のように滑らかだ。
「・・・え・・・?」
そういえば、さっきから声を出すのも苦痛ではない。
耳もよく聞こえるし、指先に力も入るし、これじゃまるで・・・まるで・・・
すると、ルフィはニッと白い歯を見せた。
「───お前、おれと同い年くらいじゃねェか」
その時初めて、クレイオは自分の身に起こっている奇跡に気が付いた。
「私・・・今・・・どんな姿をしているの・・・?」
これじゃまるで・・・ルフィと同じ17歳の少女に戻ったようだ。
そういえば、先ほどから自然と口をついて出る言葉も、老婆の口調とは思えない。
「いったい・・・何が・・・」
そうだ、これは夢だ。
ここへ来る時にも思ったじゃないか。
これは、真夏の夜に現れた妖精が見せる夢だと───
「何ボソボソ言ってんだ? おい、こっち向けよ」
「い、いくら若返ったといっても・・・顔は醜いままでしょう?」
若い女が醜い顔をしているのは、老婆が醜い顔をしていることよりも悲しい。
顔を背けていると、ルフィは眉根を寄せながらクレイオの頬を両手で挟み、強引に自分の方へ向けた。