第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「とは言ってもねェ・・・すぐには思いつかないよ」
「じゃあ、どっか行きてェところはないのか?」
「行きたいところ・・・?」
「どこだって連れていってやるぞ!」
無邪気な笑顔でジッと見つめられ、思わずたじろいでしまう。
行きたいところ・・・
ほとんどこの家から出ない自分には、そんな所などない。
と思ったその時、クレイオの脳裏に60年前の記憶が蘇った。
“月夜にふたこぶ山の頂上から一緒に海を見下ろして、もし光の道を見ることができたら、その二人は結ばれるんですって”
それは、島の娘達に伝わる、恋占いやおまじないの類だった。
ふたこぶ山とは、この島の中央にそびえる山のこと。
山頂がまるでラクダのコブのように二つに分かれている。
そのてっぺんから男女二人で海を見下ろし、水平線に向かって真っすぐと延びる月の光が“道”のように見えたら幸せになれる、というものだ。
あの頃、ルフィと同じぐらいの年齢だったクレイオも、その言い伝えを耳にした時は胸を躍らせた。
だがすぐに、“自分と一緒に行ってくれる男性などいやしない”と諦めた。
今さら誰かと結ばれたいと思っているわけではない。
だが、ルフィから“行きたいところはないか”と聞かれ、なぜかそのことが頭をよぎった。
「ないわけではないけれど・・・」
「よし、じゃあ行こう! 今すぐ行こう!」
思い立ったらすぐ行動、というわけか。
ルフィは躊躇いなくクレイオの手を握り、もう片方の手をドアに伸ばそうとした、その時だった。
手がドアノブに触れる、ほんの一瞬先にドンドンとノックする音が響く。
「海軍だ! ドアを開けろ!!」
かなり激しくドアを叩く様子から、クレイオが海賊を匿っていると確信を得ているようだった。