第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「クレイオは、ずっと一人で暮らしているのか?」
「そうだよ。幼いころに両親に捨てられてからずーっとね」
「お前、父ちゃんと母ちゃんに捨てられたのか」
さほど大したことのないように返事をしたルフィ。
別に無関心というわけではなく、彼にとってそのような過去は“特別”なものではないのかもしれない。
この若さで海賊をやっているんだ、彼にもそれなりの過去があるのだろう。
しかも、海賊王になると言っている。
22年前にイースト・ブルーの島で処刑された、あのゴールド・ロジャーのように。
海賊王のことはよく知らないが、この少年のように豪快な男だったと聞く。
「ルフィ、お前は不思議な子だね」
こうしてそばにいるだけでピリピリとするくらい、圧倒的な存在感なのに・・・
触れようとしたら透けて消えてしまうような錯覚に陥ってしまう。
気まぐれだけど、人を惹きつけて離さない妖精のようだ。
「はあ~、食った食った!」
だけど、服の隙間から大きく膨れた腹を晒す妖精がいるはずもない。
クレイオが可笑しそうに笑っていると、ルフィは口を拭きながらこちらを見上げてきた。
「なあ。飯をくれた礼に、何でも言うことを聞くよ」
「いいさ、礼なんて。こうして誰かと話ができただけで私は満足だよ」
「それじゃダメだ。おれは金を持ってねェから、クレイオの言うことを何でも聞くんだ!」
「アンタ、本当に海賊かい?」
律儀にもホドがあるだろう。
77歳の老婆に今さら“やって欲しいこと”など無い。
美味そうに料理を食べてくれただけで嬉しかったから、本当に礼はいらない。
だが、ルフィは律儀というよりも、ワガママに近い頑固さを持っていた。
「クレイオに何かしてやるまで、おれはこの島を出ねェぞ!」
鼻息を荒くしながら腕組みをしているルフィに、クレイオは困ってしまった。