第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「食事中に私の顔なんか見たらアンタ、食欲を失っちまうよ」
「なんだそれ。話している時に顔を隠される方がおれは嫌だ!」
ルフィはバリバリと魚の骨を噛み砕いて飲み込むと、パンを掴んでいる右手とは逆の手を伸ばしてきた。
そう、“伸ばして”きたのだ。
「ひぃ!!」
彼が座っているイスから、クレイオが立つキッチンまでは少なくても5メートルはある。
普通の人間なら手を伸ばしても届かない距離だ。
しかし、ルフィの腕はまるで“ゴム”のように伸び、クレイオのフードを掴んでいた。
「う、腕が・・・伸びた!!」
「ああ、おれは“ゴムゴムの実”を食ったゴム人間だからな」
ニッと笑い、そのまま容赦なしにクレイオのフードを外してしまった。
「ああ・・・!!」
慌てて顔を隠そうとしたが、時すでに遅し。
ルフィの真っ直ぐな瞳は、クレイオの顔をマジマジと見ている。
「・・・婆さん・・・」
彼女が生まれた時、母親は赤ん坊のあまりに醜さに驚愕し、床に落としてしまったという。
「み・・・見ないでおくれ・・・」
父親も成長するにつれて醜さを増していく我が子に耐えきれず、ある嵐の夜、荒くれだった海に彼女を突き落とした。
「・・・・・・・・・・・・」
ある医者は、生まれる前の母体の中での体位に問題があったと推測した。
強力な“呪い”をかけられていると騒ぐ呪術師もいた。
「それが婆さんの素顔か?」
クレイオの顔は、まるで二つの仮面をつけているかのように左右に盛り上がり、それぞれで形が違っていた。
右頬は大きな脂肪の塊がつまり、その重みに耐えかねて象の皮膚のようにシワを作って垂れ下がってしまっている。
左頬は歪んだ骨格のせいで眼球が落ちくぼみ、濃い紫色の痣が彼女の顔を覆っていた。
さらに低い鼻頭は割れ、唇もナメコのように紫色に膨れ上がっていた。