第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
一人暮らしの老人の家に蓄えてある食料なんて知れたもの。
魚の酢漬け、茹でた小エビのサラダ、クルミのパン、マッシュポテト。
どれも若者の胃袋を満たすには少々足りないだろう。
それに、ルフィと名乗った海賊はとにかくよく食べた。
「うめェ!!」
朝食で食べきれなかった2切れのパンは、最初の一口だった。
次に今朝届いた魚を焼いたが、こちらも2匹を一口で食べてしまう。
いったい彼の腹はどうなっているのか、食べ物を持っていっても、テーブルの上に置くそばから消えてった。
「にしても、婆さん、料理うめェな! サンジみてェだ!」
「サンジ?」
「おれの仲間だ。コックなんだ、あいつの作る飯はすっげぇうめェんだよ」
「そうかい」
今度は大きなミルク缶から直接牛乳を飲んでいるルフィを見て、クレイオは自然と笑顔になっていた。
この古ぼけた家のテーブルに、自分以外の人間が座っているなんて何十年ぶりだろう。
それに手料理を誰かに振る舞うなんて、初めてのこと。
いつも自分の口に合うように料理を作っていただけで、それが他人にとって“美味しい”か“不味いか”なんて考えたこともなかった。
「それにしてもよ~」
ルフィが魚の骨を齧りながら、一カ月分の塩肉を焼いているクレイオに向かって声をかける。
「なんでお前、家の中でもフードを被ってるんだ?」
「え・・・」
さっき路地裏でフードを取った時は、ルフィはゴミ箱の影に隠れていたからクレイオの顔が見えていなかったはず。
ジーッと二つの大きな目を向けてくる少年に、老婆は困ったように俯いた。