第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「な・・・なんだ・・・」
「“なんだその顔は”と仰りたいのでしょ。聞き飽きてますよ」
そのめくれ上がった唇では、ニコリと笑ったことすらも分からない。
海兵はあまりの老婆の醜さに言葉を失っていた。
「これでお分かりでしょう? 私がなぜこのような恰好をして、このような場所を選んで歩いているのか」
「・・・・・・・・・・・・」
「みなさんを貴方のように驚かせたくないからですよ」
誰だって昼間からバケモノを見たくはないでしょ?
醜女がそう言うと、海兵はその顔から目を逸らしながら地面に転がった杖を拾ってクレイオに手渡した。
「疑って申し訳なかった・・・どうか許していただきたい」
「気にしないでおくれ。慣れているからね」
海兵といっても、クレイオの年齢の半分にも満たない青年だ。
逃げるようにそそくさとその場を離れる彼に、怒りを覚えることは無かった。
ただ、この醜い顔で驚愕させてしまったことを申し訳なく思う。
クレイオは再びフードを目深に被ると、ゴミ箱の裏に隠れている海賊を振り返った。
「もう海兵は行っちまったよ。もう安心だ」
すると、海賊の少年は頭の上にゴミを乗っけたまま、目を輝かせながらクレイオを見た。
「婆さん、すげェな! 何にもしねーで海兵を追っ払っちまうんだからよ!」
「・・・ほら、早くお逃げ。まだそこら中に海兵がいるはずだ」
「おれもそうしたいんだけど・・・」
グゥゥゥと猛獣の唸り声のような音が、少年の腹から響く。
「おれ、腹が減って動けねェ・・・」
「網の次は、空腹かい・・・?」
クレイオは迷った。
生憎、薬を買うことが目的だったから、食べ物を持ってはいない。
なにより、海賊ならば堂々とレストランに入ることもできないだろう。