第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
「やべェ・・・海軍が来る・・・!!」
少年は慌てて網を解こうともがいたが、どうにもならずに地面に伸びてしまっている。
「うにゃー・・・腹も減ってるから余計に力が出ねェ・・・婆さん、頼むからこの縄を解いてくれ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
海兵が捕まえようとしている少年を助けたら罪になるだろうか。
そんな思いもよぎったが、目の前にいる彼を放っておくことができなかった。
クレイオは杖を地面に置くと、節くれだった手で縄を解いた。
ただ身体に軽く巻き付いているだけなのに、少年は不思議とまったく力を出すことができないでいるようだ。
水揚げされた魚のようにゴロンと身体が転がり出てきたところで、一人の海兵が路地に入ってくる足音が聞こえてきた。
「・・・そのゴミ箱の裏に隠れなさい」
「あ・・・ああ」
少年が身体を引きずりながらゴミ箱に身を隠したのと同時に、背後から海兵がクレイオに声をかけてくる。
「ご老人、海賊を見かけなかったか?」
「海賊・・・?」
「監獄弾で捕らえ、この辺に落ちたはずなのだが」
海賊・・・?
背後でぐったりしている彼は、海賊だったのか。
本当ならば海軍に引き渡すべきだったのかもしれない。
しかし、老婆が取った行動はその逆だった。
「さあ・・・知りませんね」
「知らないはずはない。この付近の建物の屋根を逃げ回っているところを捕らえたんだぞ」
「どこか別の場所に落ちたのではありませんか?」
「海賊の肩を持つというなら、いくらご老人でも容赦はしない。そもそも、こんな場所で何をしていた」
クレイオを怪しい人物と思ったのだろう。
海兵は持っていた銃を突き付けてきた。
「なぜ、この暑さでそのような恰好をしている。フードを取って顔を見せろ!」
「いいのですか・・・“後悔”するのはそちらの方ですよ」
海兵の方を真っ直ぐと向いて、顎までを覆っていたフードをゆっくりと取る。
その顔を見た瞬間、彼の持っていた銃が地面に落ちた。