第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
用を済ましたら、あとは一刻も早く家に帰るのみ。
“早く”といっても、杖をつきながら歩く腰の曲がった老婆だ。
その動きはゆっくりで、数メートル行くにも時間がかかる。
往来が激しい通りでは人の邪魔になるだけだと思い、水路に沿って誰も歩いていない裏手の路地に入った時だった。
ドン!!
横幅3メートルもない道を歩いていると、突然、頭上で鉄砲を放つような音が響いた。
あまり馴染みのない銃声にクレイオが思わず身をかがめたその瞬間、空から黒くて大きなものがゴミ捨て場の上に落ちてきた。
腐った野菜や魚の骨などのゴミがクッションとなったのか、その“物体”はゴムボールのように一度大きくバウンドし、クレイオの目の前に転がってくる。
「・・・人・・・?!」
それは、漁師が使う網のようなものにくるまった少年だった。
「た・・・助けてくれ・・・」
年の頃は17歳だろうか。
真っ赤なベストに、膝丈のズボンを履いている。
そして、首からは麦わら帽子をぶら下げていた。
しかし、網に絡まって動けないのか、地面にうずくまりながらクレイオを恨めしそうに見上げている。
「海楼石の網だから、力が出ねェんだ・・・」
「か・・・かいろうせき?」
少年の身体は、まるでまな板の上で捌かれているタコのようにグニャリと力なく垂れている。
力が出ない、というのは本当のようだった。
しかし、いったいどうして空から降ってきたのだろう?
クレイオがどうしたものかと迷っていると、通りの向こうから慌ただしい声が聞こえてくる。
「“麦わら”はこの辺りに落ちたはずだ!」
「くまなく探せ!!」
建物の隙間から、バズーカを持った海兵達が見える。
あれでこの網を発射したのだろうか。
すると、この少年を捕まえようとしているのか?