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【ONE PIECE】ひとつなぎの物語

第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)




果物屋の親子がそんな話をしているとはつゆ知らず、クレイオは薬屋のドアを開いた。

人を避けるように生きる彼女は、賑わう市場には滅多に来ない。
なるべく自給自足ができるよう、自宅の畑で最低限の野菜とハーブを作っている。
また、魚や小麦なども、かつて自分を育ててくれた漁師の孫が毎日届けてくれていた。
しかし、薬だけはこうして街に出てこないと手に入らない。

あまり気が進まないのだが、年を取ってからあちこちの関節が痛むようになっていたし、空咳が何週間も続くことがあったから、月に一度こうして通うようになっていた。

「こんにちわ」

それまで暇そうに店番をしていた若い薬剤師は、クレイオが入ってきたことに気づくなりギクリと表情を変え、何も言わずに店の奥に入っていった。
すると、数分もしないうちに年老いた店主が出てくる。

「クレイオさん、いらっしゃい」

彼はこの島でクレイオに普通に声をかけてくれる、数少ない者の一人だ。
大抵の人間は、先ほどの店番のようにクレイオとどう接していいのか分からず、困ったように逃げてしまう。

「今日は何の薬が必要かな?」
「痛み止めを・・・膝の関節が痛くて、歩くのもやっとでね」
「またかい・・・ちょっと待っていておくれ」

仕事柄、店主はクレイオの素顔を何度も見ている。
それでもフードを取ろうとしないのは、何十年も“醜女”として生きてきた彼女の心の傷がそうさせているのだろう。
その店主自身もクレイオと普通に言葉を交わせるようになったのは、“老人”になってからだ。

若さや健康はもう過去のもの。
自分も“憐れまれる”存在になってからようやく、クレイオに笑顔を向けられるようになった。

「あまり酷いようだったら、いい医者を紹介するよ」

塗り薬と飲み薬の両方を渡しながら言うと、老婆は少し困ったように肩をすくめた。

「あんたの薬さえあれば、私は大丈夫さ」

それに誰も自分の身体に触りたくないだろう。
嫌な気持ちをさせるぐらいなら、自分一人が我慢していた方がいい。

老婆はシワとシミだらけの手で代金をカウンターに置くと、店に入ってきた時のように杖をつきながらゆっくりと出て行った。





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